私は、人と人との間で利害がぶつかったとき、その向き合い方に「民度」が表れると思っています。普段は気持ちよく話せる相手でも、自分の希望が通らないときに、どう振る舞うか。そこに、三つの層が見えることがあります。
第一の層は、力で相手を従わせる。第二の層は、対話はするけれど、自分の利益だけを考える。第三の層は、自分の利益を大切にしながら、相手の利益まで考える。この三つです。
私がこの言葉で振り返りたいのは、一人ひとりの振る舞いです。同じ私でも、お客様の事情には時間をかけて耳を傾けた日に、社内では「時間がないから、とにかく頼む」と言ってしまうかもしれません。とりわけ、自分のほうが強い立場にいるときには、その違いに気づきにくいものです。
第一の層 力で相手を従わせる
例えば、社長の私が「この仕事を金曜日までにお願いできますか」と頼み、担当者から「金曜日は難しいです」と返ってきたとします。
「もう決めたことです。金曜日までにやってください」
社長という立場でそう言えば、声を荒らげなくても話は終わります。相手は「はい」と答えるでしょう。ただ、私には、その人が納期に納得したのか、これ以上言っても仕方がないと諦めたのか、分かりません。理由を話す機会を、私が奪ってしまったからです。
子どもに「どうしてダメなの?」と聞かれて、大人が「ダメだからダメ」と返すのと似ています。子どもが黙ると、大人は分かってくれたつもりになる。けれど、そのとき子どもが覚えたのは、「この人に理由を聞くと怒られる」ということかもしれません。
第二の層 対話をしても、自分の利益だけを考える
「金曜日にお客様との会議があるんです。急で申し訳ないのですが、何とかなりませんか」
今度は私も理由を説明しています。担当者が「その日は、別のお客様にお約束した仕事があります」と言えば、最後まで話を聞いて、「それは大変ですね」とも言うでしょう。
それでも、私の頭の中にあるのが「どう言えば金曜日までに全部やってもらえるだろう」だけなら、相手が何を話しても結論は変わりません。私の会議には間に合います。そのために別のお客様に頭を下げるのも、残業して両方を間に合わせるのも、担当者です。
私がいちばん見落としやすいと思うのは、この二つ目です。丁寧に頼み、お礼も言い、相手も引き受けてくれた。頼んだ側には、きちんと話し合えたという実感さえ残ります。最後に負担を引き受けたのが誰かまで見て、初めて気づくことがあります。
第三の層 自分の利益も、相手の利益も考える
ここで、頼んだ私のほうが、金曜日の会議で何をするのか考え直してみます。お客様がその日に判断するために必要なのは見積もりの数字で、詳しい説明資料を使うのは翌週だと分かったら、頼み方は変わります。
「金曜日の午前中に、見積もりの数字だけいただけますか。資料は月曜日にお渡しすると、私からお客様に伝えます。それなら、先にお約束している仕事も進められそうですか」
私は会議で必要な話ができ、担当者も自分のお客様との約束を守れます。相手の事情を聞いたことで、私が引き受ける仕事も一つ増えました。お客様に納品の段取りを説明することです。
第二と第三の違いは、相手から「困ります」と言われたあとに表れます。相手の事情を聞いて、説得の言葉を変えるのか。自分が出した条件も変えられるのか。私は、そこに大きな差があると思っています。
相手が力で押してくるときは、どうするか
ここまでは、私が頼む側の話です。では逆に、自分が「いいから金曜日にやってくれ」と言われた側なら、どうするか。相手の利益も考えたいからといって、無理な約束まで引き受ける必要はありません。こちらには、すでに約束をしているお客様も、一緒に働く仲間もいます。
私なら、まず短く事実を伝えます。「金曜日に全部を仕上げるには、先にお約束した仕事を延期する必要があります。私の判断では、そのお約束は変えられません」。それでも強い言葉が続くなら、その場で返事を決めず、「責任者を交えて、どちらを優先するか確認します」と区切ります。
これは、言う側より、言われる側のほうがずっと難しい。だからこそ経営者として、社員に「勇気を出して断りなさい」と言うだけでは足りないと思っています。例えば、取引先から無理な要求を受けた社員が私に相談したなら、先方に事情を説明し、条件を調整するところまで私が引き受ける。相談したあとも本人が一人で矢面に立つのなら、次からは黙って「はい」と言うでしょう。
相手が話を聞いても、自分の利益しか考えないときは、どうするか
こちらのほうが、対応に迷います。相手は穏やかですし、「事情はよく分かります」とも言ってくれるからです。ただ、話が終わるたびに、納期も作業量もそのままで、こちらの負担だけが増える。そういうとき、私は相手の本心を推し量るより、選べる条件を具体的に示すほうがよいと思っています。
「金曜日なら、会議に必要な数字をお出しできます。資料一式なら月曜日です。今回、優先したいのはどちらでしょうか」
こう聞くと、会話が一歩進みます。相手が「実は、お客様が金曜日に判断できればいいんです」と話してくれれば、数字を先に渡すことで双方の目的がかないます。初めの頼み方だけでは見えなかった事情は、こちら側にも相手側にもあるものです。
一方で、どちらの案にも応じず、「事情は分かるけれど、そちらで何とかしてほしい」と言われることもあります。そのときは、「では、今お約束できるのは金曜日の数字までです」と答えてよい。相手にとって何が大切かを聞くことと、相手の都合をすべて自分が背負うことは、別々に判断できます。引き受けた範囲をはっきり伝えるほうが、後になって「できませんでした」と言うより誠実です。
私がこの三層を考えるとき、最後に浮かぶのは、社長である私に向かって「それは難しいです」と言ってくれた人のことです。そのひと言が出たのは、まだ私と話し合う余地があると思ってくれたからかもしれません。
次にそう言われたら、「何とかならないか」と重ねる前に、「今、どんな約束を抱えていますか」と聞きたい。そして、その答えを聞いたら、今度は私が、何を変え、何を引き受けるかを答える番です。
XEROTTA株式会社
代表取締役 内匠屋 勇樹



