能力と役割で、組織は変わる|ゼークトの組織論を考える

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能力と役割で、組織は変わる。異なる働き方の4人がオフィスで協働する様子を表すAI生成画像

一生懸命働いているのに、チームの成果がなかなか上がらない。仕事を引き受ける人ほど忙しくなり、会議や報告だけが増えていく。そんな状況を考える手がかりになるのが、日本で「ゼークトの組織論」と呼ばれる、人材を四つに分ける考え方です。

この話から考えたいのは、努力の量だけで人を評価せず、判断力と役割の組み合わせを見ることです。熱意を成果につなげるには、本人の頑張りに加え、任せる仕事、判断の範囲、周囲の支援を整える必要があります。

 

「ゼークトの組織論」とは何か

一般的な呼び方 現代の職場で考える視点 役割・支援の例
有能な怠け者 全体を見渡し、必要な仕事を選ぶ 方針の決定、優先順位づけ、役割の設計
有能な働き者 考えたことを具体的な行動に移す 計画の具体化、実行、品質の確保
無能な怠け者 自律的な判断や行動に支援が必要な状態 明確な手順、教育、相談先の用意
無能な働き者 判断が不十分なまま行動を広げてしまう 目的の確認、小規模な試行、事前の相談

 

「有能な怠け者」から考える、リーダーの仕事

この分類で印象に残るのは、「有能な怠け者」が上位の指揮に向くとされる点です。現代の仕事に引き寄せるなら、目の前の業務をすべて抱えるよりも、目的を見極めて仕事を整理する姿勢として読むことができます。

たとえば、毎日1時間かかる報告書の作成に困っているチームがあるとします。リーダーには、作成を手伝う選択に加えて、「誰が何を判断するための報告なのか」「同じ情報を別の場所でも集めていないか」「頻度や項目を減らせないか」を検討する仕事があります。

不要な作業を減らし、必要な判断に時間を使えるようにする。そこで生まれる余力が、チームの成果につながります。ただし、これは責任を引き受けずに仕事を任せきりにすることを肯定するものではありません。目的、権限、期限、相談の基準を明確にし、結果に責任を持つことが前提です。

「有能な働き者」が、方針を成果に変える

優れた方針があっても、実行が伴わなければ成果は生まれません。目的を理解し、具体的な手順へ落とし込み、細かな問題を解決しながら仕事を進める人は、組織の中核を担います。

たとえば、新しいサービスを始める場面では、提供内容の整理、担当者の調整、納期の管理、品質の確認など、多くの実務が必要になります。判断力と実行力を持つ人がいることで、構想が現実になります。

一方で、仕事ができる人に依頼が集中すると、その人が休んだだけで業務が止まりかねません。担当を増やすだけでなく、手順の共有、後任の育成、仕事を断る基準も整える必要があります。勤勉な人がリーダーに向かないという意味でもありません。個人の仕事を完遂する力に、他の人が成果を出せるようにする力を加えることが大切です。

行動が少ない人には、何が足りていないのか

「無能な怠け者」という表現は、そのまま職場で人に向けるには乱暴です。指示を待っているように見えても、仕事の目的がわからない、経験が足りない、失敗を強く責められるため動けない、といった事情が考えられます。

新しく配属された人に「自分で考えて進めて」と伝えるだけでは、期待する行動は引き出せないことがあります。完成の見本、優先順位、使える情報、困ったときの相談先を示すだけで、進められる範囲が変わる場合もあります。

まず確認したいのは、本人に何を期待しているかが共有されているか、必要な知識や練習の機会があるかという点です。現在の仕事で判断が難しいことと、その人に能力がないことは同じではありません。役割や環境が変われば、発揮できる力も変わります。

なぜ、熱心な行動が負担を増やしてしまうのか

四分類のうち、組織運営への問いかけが強いのが「無能な働き者」です。現代の職場では、十分に確かめずに行動を広げた結果、周囲の手戻りや負担を増やしてしまう状況として考えられます。

たとえば、進捗を見えるようにしようと、既存の管理表を確認せずに新しい日報を増やす。顧客を喜ばせようと、現場の対応力を確認しないまま納期を約束する。改善のつもりで、関係者に相談せずに手順を変更する。いずれも善意や熱意から始まる可能性がありますが、結果として二重作業や混乱につながることがあります。

ここで確認すべきなのは、「熱意があるか」に加え、「判断の根拠はあるか」「影響を受ける人に相談したか」「効果を確かめる方法はあるか」です。行動を止めるだけでなく、判断を支える情報と確認の仕組みを用意することが、マネジメントの役割になります。

なお、1933年の紹介文では、この類型について組織から外す趣旨の強い表現が使われていますが、「銃殺せよ」という文言は確認できません。本記事では、人を排除する根拠として用いず、誤った判断が大きな影響を及ぼす前に支援・調整する視点として読み直しています。

この問いは、管理職自身にも向けられる

四分類を読むと、周囲の誰かを当てはめたくなるかもしれません。しかし、まず振り返りたいのは、自分の判断です。権限の大きい人が不要な仕事を増やすと、その影響はチーム全体に広がります。

毎週の会議を増やしたことで、何が決められるようになったのか。提出を求めた資料は、実際の意思決定に使われているのか。「念のため」の確認が重なり、現場の時間を奪っていないか。善意で始めた施策でも、効果を振り返らなければ負担だけが残ることがあります。

忙しさは活動している証拠にはなりますが、それだけで成果を証明することはできません。行った作業と、その作業が生んだ価値を分けて見ることが必要です。

職場で生かすための五つの実践

  1. 仕事の目的と完成条件を共有する。「何をするか」に加え、「誰のどんな問題を解決するか」「どの状態になれば完了か」を伝えます。
  2. 判断できる範囲を明確にする。自分で決めてよいことと、事前に相談することを分けます。特に費用、納期、他部署への影響がある変更では確認の基準が役立ちます。
  3. 小さく試して、結果を確かめる。全員の業務を一度に変更せず、一部の業務や短い期間で試します。現場の声と結果を見てから広げます。
  4. 作業量と成果を別々に見る。処理件数だけでなく、品質、手戻り、顧客の反応、周囲への負担も確認します。目立ちにくい予防や支援の仕事も評価に含めます。
  5. 成長に合わせて役割を見直す。一度の失敗で人を分類し続けず、教育や経験を踏まえて任せる範囲を調整します。支援しながら、判断できる仕事を少しずつ増やします。

人を分類する前に、仕事の設計を見直す

「ゼークトの組織論」は、強い言葉で語られることが多い話です。しかし、現代の組織で役立てるには、人に固定的なラベルを貼るより、能力が発揮される条件に目を向ける必要があります。

適切な判断をする人、実行を支える人、経験を積んでいる人。それぞれが力を発揮するために、どんな役割と支援が必要なのか。努力が成果につながらないとき、本人だけでなく、指示や権限、評価の仕組みに改善の余地はないのか。

人の頑張りを生かせる組織は、目的を共有し、役割を整え、判断を支えます。身近な仕事を一つ取り上げ、その仕事が何のためにあり、誰のどんな力を必要としているのかを考えることから始めてみてはいかがでしょうか。

 

この記事の執筆者
内匠屋 勇樹(Xerotta株式会社 代表取締役)